発作管理に加え、睡眠・情動行動・QOLの変化を追跡した症例

症例のポイント
- 2024年7月31日生まれの若齢小型犬にみられた特発性てんかん症例
- 神経科専門医の管理下で抗てんかん薬を調整しながら、ASTRAVET 3% CBDオイルを補助的に併用
- CBD導入後、夜間睡眠の安定と発作後興奮の短縮を飼い主が実感
- 発作頻度だけでなく、同居犬との遊びや甘える行動などQOLの変化も継続的に評価
- CBDは発作治療の代替ではなく、睡眠・情動・生活の質を支える補助的選択肢として位置づけた
1.症例概要
2024年7月31日生まれの雌のトイプードルに対し、特発性てんかんの補助療法としてCBDオイル(ASTRAVET 3%)を併用し、長期経過を追跡した症例である。
初発発作は2025年5月7日午前5時に認められ、その後おおむね10日前後の間隔で痙攣発作を繰り返していた。
発作時には全身性痙攣に加え、発作後の興奮、徘徊、唸り、走り回る行動がみられた。

MRI検査では尾側後頭骨形成異常(COMS)が確認されたが、神経科専門医による評価では脊髄空洞症や水頭症を伴わず、症候への関与は限定的と判断された。
最終診断は IVETF Tier2基準に基づく特発性てんかんとされた。
抗てんかん薬としてゾニサミド(コンセーブ)、フェノバルビタール、後に臭化カリウムが用いられた。
補助療法として五苓散、抑肝散加陳皮半夏、MCTオイル、CBDオイルを併用し、行動学的サポートおよび生活環境調整を継続した。
往診時(2025年8月4日)の体重は2.35kgであり、その後2.36kg(9月5日)、2.44kg(10月22日)、2.44kg(11月4日)と推移し、2026年春時点では2.4kg前後で安定している。
2.CBD併用の位置づけと運用方針
本症例では、CBDオイルを「抗てんかん薬の代替」ではなく、神経興奮、睡眠障害、不穏行動、生活の質(QOL)の補助的介入として位置づけた。
2025年8月7日よりASTRAVET 3% CBDオイルを開始した。
開始当初は1日1回1滴から導入し、その後1日2回、さらに1日3回へ段階的に調整を行った。
導入にあたっては、肝酵素変化、鎮静、食欲変化、消化器症状などの副反応をモニタリングしながら運用した。
また、神経科専門医による抗てんかん薬調整と並行し、MCTオイルを追加導入した。
MCTオイルは総代謝エネルギーの約9%を目安として段階的に増量し、神経代謝の補助を目的として使用した。
3.CBD導入後の状態
CBD導入後、飼い主から最も強く報告された変化は「夜間の睡眠の安定」であった。
朝夕7〜8時頃に食事とともにCBDを摂取すると、約1時間30分後から眠気がみられ、夜は23時頃には深く眠るようになった。
導入前に頻繁に認められていた「夜中・明け方の唸り」「突然走り出す」「興奮して吠える」といった行動は著明に減少した。
また、寝起き時の不穏状態も改善し、同居犬(雌のトイプードル)と遊ぶ、飼い主の顔を舐める、お手で起こすなど、社会的行動や愛着行動の増加が報告された。
耳後ろを執拗に掻く行動および壁への引っ掻き行動については完全消失には至らなかったものの、飼い主評価では「10→3〜6程度まで軽減した」と表現されている。
4.発作頻度と発作後行動の変化
初期には平均10日前後で発作が認められていたが、CBD導入後には発作間隔の延長が観察された。
特に2025年8月22日には「1か月間発作なし」が報告され、これは本症例で初めての長期無発作期間であった。
その後も発作は完全消失には至らなかったが、発作後興奮時間の短縮が認められた。
2025年9月5日の報告では、8月25日に発作が再発したものの、「発作も興奮も1分以内で治まった」と記録されている。
また2026年春時点では、4月の発作は1回、5月は豪雨・強風時に1回であり、気圧変動時にも大きな崩れなく経過していた。
一方で、フェノバルビタール減量時やゾニサミド増量時には発作再燃や食欲低下が認められ、抗てんかん薬調整が発作コントロールに強く影響していることも確認された。
5.食欲・情動・生活行動の変化

本症例では、てんかん発作だけでなく、「普通の犬らしい生活」が回復していったことが特徴的であった。
CBD導入後、飼い主からは、
- 表情が生き生きしてきた
- しっぽを振るようになった
- 甘える行動が増えた
- 同居犬との遊びが増えた
- 幼稚園やドッグランで楽しそうに過ごせた
などの報告が継続的に得られた。
一方で、犬同士の挨拶に対する選り好み、後方から匂いを嗅がれることへの反応性、散歩時の過敏性など、行動学的課題は残存していた。
そのため、本症例ではCBD単独ではなく、行動学的介入、環境調整、運動管理、同居犬との関係性支援を含めた包括的サポートを継続した。
6.臨床的示唆(まとめ)
本症例では、CBD導入後に発作間隔延長、睡眠安定化、夜間不穏行動の軽減、社会的行動の改善など、多面的な変化が観察された。
ただし、本症例は単一症例であり、抗てんかん薬調整、MCTオイル、漢方、加齢、環境調整、同居犬との関係性など、多数の因子が同時に関与している。
そのため、CBD単独の抗てんかん効果を断定することはできない。
一方で、飼い主が一貫して報告した「睡眠の質の改善」「夜間不穏行動の減少」「犬らしい行動の回復」は、本症例におけるQOL改善の重要な所見であった。
CBDは、特発性てんかん症例において“発作のみ”を評価対象とするのではなく、睡眠・情動・生活行動を含めた包括的QOL介入として位置づける必要性が示唆された。