10歳ラブラドール・レトリーバーにおける
歩き出し・歩行継続時間・QOL変化を含めた 在宅動画モニタリング症例

症例のポイント
- 10歳、避妊済み雌のラブラドール・レトリーバー
- 右肩の疼痛を疑う歩行変化
- ATRAVET 40% CBDオイルを1日2回、1回2滴で1か月継続
- 使用開始1週間後、歩き出しの速さと歩行継続時間に変化
- 単独投与でも忌避がみられず、在宅ケアとして継続しやすかった
- CBDは治療の代替ではなく、QOLを支える補助的選択肢として評価
1.症例概要
10歳の避妊済み雌のラブラドール・レトリーバーに対し、右肩の疼痛を疑う歩行変化に対する補助的ケアとして、CBDオイルを併用し、在宅での経過を観察した症例である。
本症例では、CBDオイル導入前より、右肩に痛みを示すような歩き方が認められていた。散歩時には歩き出しが遅く、開始後まもなくゆっくりとした歩行になってしまう様子がみられた。
シニア期の大型犬では、関節、筋肉、神経、体重負荷、加齢に伴う活動性低下など、複数の要因が重なって歩行変化が現れることがある。本症例においても、右肩への負担や違和感が疑われ、日常生活における活動性および生活の質(QOL)への影響が懸念された。
今回、CBDオイル使用前の屋外歩行、初回投与時の様子、使用開始1週間後の同じルーチンでの屋外歩行を動画で記録し、歩き出し、歩行速度、歩行継続時間、投与受容性について観察した。
2.使用したCBDオイルと運用方針
本症例では、CBDオイルを疼痛の診断や治療の代替としてではなく、シニア犬の歩行時の不快感、活動性、快適性、QOLを支える補助的介入として位置づけた。
使用したCBDオイルは、日本アニマルCBD協会が推奨しているATRAVET 40% CBDオイルである。
投与方法は、1日2回、1回2滴とし、1か月間継続して使用した。オイルはスポイトで滴下するタイプであり、投与時には犬が単独でも忌避する様子は認められなかった。
シニア犬の在宅ケアでは、製品の成分だけでなく、継続使用のしやすさが重要である。どれほど有用性が期待される選択肢であっても、犬が強く嫌がる、投与に時間がかかる、飼い主の負担が大きいといった場合には、日常的なケアとして継続しにくい。
本症例では、スポイトでの投与が可能であり、食味に対する明らかな拒否がみられなかったことから、飼い主にとっても日常的に取り入れやすいケアであったと考えられた。
導入にあたっては、歩行状態の変化に加え、食欲、元気、消化器症状、過度な鎮静、日常行動の変化などを観察しながら継続した。

3.CBD導入前の状態
CBDオイル導入前、本症例では右肩に痛みを示す歩き方が認められていた。
屋外での歩行開始時には、動き出しがゆっくりであり、歩き始めてからも早い段階で歩行速度が低下する様子がみられた。散歩中の動きには慎重さがあり、右肩への負担や違和感を避けるような歩行が疑われた。
大型犬において、歩き出しの遅さや歩行継続時間の短縮は、飼い主から「年齢のせい」と捉えられやすい変化である。しかし、これらの変化の背景には、関節痛、筋肉痛、神経疾患、体重負荷、慢性的な炎症、不快感などが関与している場合がある。
そのため、本症例では、単に歩行速度だけを評価するのではなく、歩き出し、歩行継続時間、犬の意欲、飼い主から見た日常生活のしやすさを含めて観察した。
また、在宅で撮影された動画を用いることで、診察室内だけでは把握しにくい、日常環境下での歩行の質を確認することができた。
4.CBD導入後の経過
CBDオイルの使用開始後、1週間の時点で歩行状態に変化が観察された。
右肩の痛みを示す歩き方そのものは、導入後1週間の時点でも残存していた。したがって、本症例においてCBDオイルにより疼痛の原因が消失した、または歩行異常が完全に解消したと評価することはできない。
一方で、歩き出しの速さには変化がみられた。
CBDオイル導入前は、歩き始めの動きが遅く、散歩開始後まもなくゆっくりとした歩行になっていたが、導入1週間後には、歩き出しの速さが痛みを示す以前に近い印象となった。
また、歩行を継続できる時間も長くなっており、散歩時の活動性に変化が認められた。 これらの変化は、右肩の痛みを示す歩き方が残る中でも、動き出し時の不快感、歩行に対する意欲、または活動継続に関わる体感に何らかの変化があった可能性を示唆するものと考えられた。

5.動画記録から確認されたポイント
本症例では、CBDオイル使用前、初回投与時、使用開始1週間後の動画が記録されていた。
動画記録により、以下のような点を比較することができた。
● 歩き出しまでの反応
● 歩行開始直後の速度
● 歩行を継続できる時間
● 右肩をかばうような歩き方の有無
● 散歩中の意欲や動きの軽さ
● CBDオイル投与時の受け入れやすさ
シニア犬の疼痛や歩行変化は、静止画像や飼い主の記憶だけでは把握しにくいことがある。とくに「少し歩き出しが遅い」「なんとなく重そう」といった変化は、日々一緒に過ごしている飼い主にとっても判断が難しい。 そのため、本症例のように同じルーチンで動画を記録し、経時的に比較することは、シニア犬のQOL評価において有用であると考えられた。
6.行動診療の視点からみたQOL変化
犬にとって散歩は、単なる運動ではない。
歩くことは、においを嗅ぐ、周囲を探索する、飼い主と一緒に移動する、外界から刺激を受けるといった、重要な行動機会である。
そのため、痛みや不快感によって歩行時間が短くなることは、身体的な活動量の低下だけでなく、探索行動や気分転換の機会の減少にもつながる。
本症例では、右肩の痛みを示す歩き方そのものは残存していたものの、CBDオイル使用開始1週間後に歩き出しの速さや歩行継続時間に変化がみられた。
これは、疼痛の完全な消失を意味するものではないが、犬が「歩き出せる」「歩き続けられる」という行動面の変化として捉えることができる。
シニア犬のQOL評価では、検査値や診断名だけでなく、日常生活の中でその子がどの程度快適に動けるか、散歩をどの程度楽しめるか、飼い主との時間をどのように過ごせるかを含めて評価する必要がある。
本症例は、CBDオイルを含む補助的ケアを検討する際に、疼痛そのものだけでなく、行動とQOLの変化をあわせて観察する重要性を示す症例であった。
7.CBDオイル製剤の特徴と在宅ケアとしての意義
本症例で使用したCBDオイルは、スポイトで滴下するタイプであり、1回量を調整しやすい剤形であった。
シニア犬では、錠剤やカプセルの投与を嫌がる、嚥下に不安がある、食欲にむらがある、投薬そのものがストレスになるといった課題が生じることがある。
その点で、オイル製剤は、少量から導入しやすく、個体の反応を見ながら調整しやすいという利点がある。
また、本症例では単独でも忌避がみられなかったため、飼い主にとって日常的に継続しやすい選択肢であった。
シニア犬のケアにおいては、犬にとっての受け入れやすさと、飼い主にとっての継続しやすさの両方が重要である。本症例は、CBDオイルの剤形や食味が、在宅ケアの継続性に関わることを示す症例でもあった。
8.臨床的考察
犬の慢性疼痛や運動機能低下に対するCBDの活用については、近年、複数の臨床研究やレビューで検討されている。
一部の研究では、CBDが犬の変形性関節症に伴う痛みや活動性に対して有用である可能性が示唆されている。一方で、現時点では研究数や症例数に限りがあり、CBDの臨床効果を明確に結論づけるにはさらなる検討が必要である。
したがって、本症例においても、CBDオイルが右肩の疼痛そのものを直接改善したと断定することはできない。
しかし、使用開始1週間後に、歩き出しの速さや歩行継続時間に変化がみられたことは、シニア犬のQOLケアを考えるうえで注目すべき経過であった。
また、CBDは既存治療の代替としてではなく、獣医師の評価のもとで、生活環境の調整、体重管理、運動管理、必要に応じた疼痛管理と組み合わせながら検討される補助的選択肢である。
とくにシニア犬では、「完全に若い頃の状態へ戻す」ことだけが目標ではない。
少し楽に歩き出せること。
少し長く散歩を続けられること。
外に出る意欲が保たれること。
飼い主と一緒に過ごす時間の質が保たれること。
こうした日常の小さな変化が、シニア犬のQOLに大きく関わっている。 本症例では、CBDオイルの使用により、疼痛の完全な消失ではなく、歩行に関連する行動面の変化が観察された。このような変化を丁寧に記録し、獣医師と共有することは、シニア犬の包括的なケアにおいて重要である。
9.臨床的示唆(まとめ)
本症例では、10歳のラブラドール・レトリーバーにおいて、右肩の疼痛を疑う歩行変化に対し、CBDオイルを補助的に併用した経過を観察した。
CBDオイル導入前には、歩き出しの遅さ、早期の歩行速度低下、右肩に痛みを示す歩き方が認められていた。
1日2回、1回2滴でCBDオイルを継続したところ、導入1週間後には、右肩の痛みを示す歩き方そのものは残存していたものの、歩き出しの速さが痛みを示す以前に近づき、歩行継続時間にも変化がみられた。
また、スポイトで滴下するオイル剤形であり、単独でも忌避がみられなかったことから、在宅ケアとして継続しやすい特徴が確認された。
ただし、本症例は単一症例であり、歩行変化には加齢、体格、関節・筋肉・神経の状態、日々の活動量、環境、飼い主の観察条件など、複数の因子が関与する。そのため、CBDオイル単独による疼痛軽減効果を断定することはできない。
CBDオイルは、疼痛の診断や治療に置き換わるものではない。歩行変化が認められる場合には、まず獣医師による診察と原因評価が必要である。
そのうえで、CBDは、シニア犬の活動性、快適性、生活の質を支える補助的選択肢のひとつとして検討される可能性がある。 本症例は、シニア犬の歩行変化に対して、痛みそのものだけでなく、「歩き出せること」「歩き続けられること」「散歩を楽しめること」といったQOL指標を含めて評価する重要性を示す症例であった。